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心理学ワールド 88号 小特集 対話と協働の中での言語習得 ─独日国際児の事例から 柴山 真琴(大妻女子大学) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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25 小特集 心の発達と文化 察,②フィールドワーク,③二言 語検査(作文を含む),を組み合 わせた多角的手法を採用したこと である。 独日国際児の二言語形成過程  宿題(表1参照)と読書は,国 際児の二言語形成を支える中核的 な活動であることがわかってき た。以下では,ある独日国際児の 約4年間(現地校4 〜 7年生,補 習 校 小4・2学 期 〜 中2・1学 期 ) の変化過程を,(1)宿題遂行過程, (2)読書過程,(3)作文力の形成過 程,という三つの側面から質的に 分析した結果の一部を紹介する。 (1) 宿題遂行過程における対象児 の変化過程(柴山ら,2019)  宿題遂行過程を家族間調整と いう視点から分析した結果,次 の2点が明らかになった。①対象 の形成過程やそれを支える家族の 実践過程は,ほぼ未解明であっ た。  そこで筆者は,2009年に国際 児の二言語形成過程を質的に解明 するための共同研究を立ち上げた (ビアルケ千咲,高橋登,池上摩 希子の三氏が研究分担者)。同研 究で採用した研究方法論には,二 つの特徴がある。一つは,従来, 個人的な認知活動と見なされがち であった子どもの二言語形成過程 を 「親子の共同行為」 として捉え 直し,〈日常実践に基礎を置く協 働的・解釈的過程〉として探究す る質的アプローチを採用したこと である。もう一つは,国際結婚家 族の日常実践における協働的・解 釈的過程を捉えるためのデータ収 集法として,①親による行動観 子ども期の二言語学習  児童期に二言語で読み書きを学 ぶ子どもが増えてきた。国際結婚 家族の子ども(国際児)はその代 表例であるが,二言語で高い読み 書き力を形成する上での困難さが 大きいとされる。父親または母親 の母国に居住して現地校に通う国 際児の場合,現地語モノリンガル 児並みに現地語力を伸ばすのも決 して容易ではなく,親からの継承 語(現地語ではない親の母語)で の読み書き力も伸ばしにくいため である(柴山ら,2016)。日本語 補習授業校(補習校)に通う児童 生徒の二言語力に関しては,現地 語(英語)力は高い反面,日本語 力が小4以降に二分化する傾向が あることが指摘されていたが(片 岡ら,2005),子どもの二言語力

対話と協働の中での言語習得

─ 独日国際児の事例から

大妻女子大学家政学部ライフデザイン学科 教授

柴山真琴

(しばやま まこと) Profile─ 1998年,東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。2010年よ り現職。専門は発達心理学,質的心理学。著書は『行為と発話形成のエスノグラ フィー』(東京大学出版会),『子どもエスノグラフィー入門』(新曜社)など。 表 1 現地校と日本語補習授業校における学習・宿題関連事項:対象児の場合 学 校 学習・宿題関連事項 現 地 校 学校制度 ◦分岐型学校制度を採用(基礎学校 4 年時の進学テストの成績により中等学校への進学振り分けをする) 基礎学校 (1 〜 4 年生) ◦進学テスト:ドイツ語・算数・生活科の 3 教科合計で 24 回のテストを行い,成績の平均点を出す(州で統一) ◦ 進学基準点:ギムナジウム(大学進学希望者が進学する中高一貫校)は平均点 2.33 以下,実科学校は平均点 2.34 〜 2.66 以下, 基幹学校は平均点 2.67 以上(6 段階評価/ 1 が最高点で 6 が最低点)(州で統一) ◦宿題:ほぼ毎日宿題が出され,テスト準備を兼ねることもある ギムナジウム (5 〜 12 年生) ◦成績評価:年 4 回の試験と平常点(小テスト・口頭発表・発言の量と質など)を総合して成績評価がなされる ◦ 進級:年度末の成績で落第点(5 と 6)が州で規定された数を超えると原級留置となる。原級留置が 2 回連続または在学 中 3 回目になる場合は,学力レベルが下の実科学校や基幹学校に転校しなければならない ◦宿題:ほぼ毎日宿題が出される(特に金曜日には多量の宿題が出されるが,長期休暇中の宿題はない) 日本語補習 授業校 (小 1 〜中 3) ◦授業日:週 1 回 ( 国語 3 時間と算数あるいは他教科 1 時間の土曜半日授業) ◦授業:学習指導要領への準拠と検定教科書の使用を原則とし,「週 1 回の通学+ 1 週間分の宿題」を基本に編成 ◦進級:点数による成績評価はなく,学年進行と共に自動的に進級する ◦宿題:家庭での宿題が読み書き力形成の主要な活動と見なされている ※同校には高等部も付設されているが,独自の授業を行っているため,表には含めていない。

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26 家族の場合,親が自分の母語の宿 題(ドイツ人父親は現地校宿題, 日本人母親は補習校宿題)を支援 する分業体制がとられていた。こ の分業体制は,それぞれの宿題を めぐる親子間調整の単位にもなっ ていた。②子どもが現地校・補習 校の宿題に取り組む背後では,現 地校と補習校の関係,現地校と友 人の関係,自分の将来との関係な ど,子ども自身が生態学的環境に 対する理解を深め,その理解と関 係づけて眼前の宿題を意味づけつ つ親との調整を図っていた。現地 校宿題の遂行過程では,現地校か らの学業達成の圧力や同輩集団か らの刺激を受けながら,ドイツ語 を現在・将来の自分にとっての中 核言語として位置づけ,ドイツ語 力を高めて良い成績をとることを 目指して自発的に宿題に取り組ん でいた。他方で,補習校宿題につ いては,学業達成の圧力も同輩集 団からの刺激も弱い状況下で,現 在・将来の自分にとっての日本語 学習の意味を模索しつつ,母親の 支援を遠ざけ明確な目標も持てな いままに宿題をこなしていた。  国際児の補習校宿題への取り組 みが思春期に停滞しがちなのは, 親子関係の再編過程で生じる母親 の支援方法への反発だけが原因で はなく,日本語を自分の言語とし て育てていく営みを支える将来展 望や学習目標の脆弱さも抑止的に 作用していると推察された。 (2) 読書過程における対象児の変 化過程(ビアルケら,印刷中)  読書過程の分析から,対象児の 読書活動は2段階を辿って進行し ていたことがわかった。 【第一段階】現地校(ギムナジウ ム)での成績評価の圧力の強まり を受け,親が価値づけを修正(学 業成績に関係しない日本語よりも ドイツ語の読書を優先)して,子 どものドイツ語読書を支援する段 階。この時期は,読書活動におい ても現地校の友人との交流が活発 化し,対象児が読書の楽しみを経 験し,継続的な読書活動を行うよ うになった時期でもあった。 【第二段階】子ども自身が複数言 語の読書を自律的に選択・調整す る段階。第二段階への移行過程 は,①将来展望の中での各言語の 意味づけの形成,②親からの自 立,③認知的発達と自分の言語能 力をモニターする意識の形成,と いう三側面での発達に支えられて いると推察された。現地校の学業 成績に関係するドイツ語や英語の 読書は拡大する一方で,学業成績 に関係しない日本語の読書は縮小 されたが,日本滞在時には,日本 人友人との交流や日本への愛着に 支えられて,揺れを伴いつつも間 欠的に実践されていた。 (3) 作文力の変化過程(ビアルケ ら,2019)  対象児が小4から中3までに同 じ課題で書いた日本語作文をドイ ツ語作文と比較しつつ縦断的に分 析した結果,以下の2点が明らか になった。①産出量や語彙・構文 の多様性などの面では,日本語母 語児に比べると伸びが緩やかで あったが,談話レベルでは母語児 に近い作文を書いており,優勢な ドイツ語に牽引されるように日本 語で書く力が伸びていた。具体的 には,まず接続表現や構文が複雑 になることで論理的なつながりが 改善され,それに続いて作文の全 体構成や内容が高度化していた。 ②他方で,ドイツ語作文に近いレ ベルで日本語作文を書こうとする と,日本語の表現手段が限られて いるために文法的な誤用が生じた り,漢字熟語が不足しているため に不自然な表現が出現したりして いた。 おわりに  対象児の二言語形成過程は,複 層的な変化過程であることがわか る。(1)と(2)の研究からは,国際 児が二言語を同時習得する過程 は,生態学的環境との対話や親・ 友人との協働の中で,子ども自身 が二言語を育み意味づけ位置づけ ていく解釈的な過程であることが 窺える。(3)の研究からは,日本 語経験が少ない対象児が形成しつ つある日本語作文力には,日本語 モノリンガル児には見られない固 有の特徴があることが窺える。  次の課題は,上述した変化過程 が,現地語と生態学的環境を異に する国際児にも広く見られるのか どうかを検討することである。現 在,比較研究に着手したところで ある。 文 献 ビアルケ(當山)千咲・柴山真琴・ 高橋登・池上摩希子(2019)継承 日本語学習児における二言語の作 文力の発達過程.『日本語教育』 172, 102-117. ビアルケ(當山)千咲・柴山真琴・ 池上摩希子・高橋登 (印刷中)複 数言語環境に育つ子どもはどのよ うに読書活動を実践してゆくの か.『質的心理学研究』19. 片 岡 裕 子・ 越 山 泰 子・ 柴 田 節 枝 (2005)アメリカにおける補習校 の児童・生徒の日本語力及び英語 力の習得状況.『国際教育評論』2, 1-19. 柴山真琴・ビアルケ(當山)千咲・ 高橋登・池上摩希子(2016)子ど もの言語習得とグローバル化時代 のインターフェース.『発達心理 学研究』27, 357-367. 柴山真琴・ビアルケ(當山)千咲・ 高橋登・池上摩希子(2019)現地 校・補習校の宿題支援における家 族間の調整過程.『人間生活文化 研究』29, 236-256.

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